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| 2008.6.4 |

| ◆ No.201 シュレディンガーとシェーンハイマー |

福岡伸一氏の「生物と無生物のあいだ」(講談社現代新書)は科学本としては珍しくベストセラーになっているので、お読みになった方も多いと思います。この著書で生命(せいめい)の理解に貢献したとして劇的に紹介されているのが題記の2名です。 前者は波動方程式のエルビン・シュレディンガーです。この知の巨匠は、ヒットラーのオーストリア占拠後に反ナチズムの姿勢を急遽撤回したことでオーストリアの大学を解雇され、隠遁したアイルランドで「生命とは何か」を執筆することになるのですが、物理学と生物学を結びつけたその本が2重ラセンを原点とする近代生物学の発展を導き出します。 原子に比べて生物が圧倒的に大きい理由を統計学的に考察し、生物がエントロピー増大の法則にさからって「負のエントロピーを食べて生きている」という概念(ネゲントロピー)を提出しました。ナノテクの重要な要素である自己組織化とも関係するそのようなお話は福岡氏の見事な筆致にお任せして、ここではネゲントロピーの実体を明らかにすることになったルドルフ・シェーンハイマーが1930年代後半に行なった実験を紹介します。
シェーンハイマーは体重が一定になった大人のネズミに重窒素で標識したロイシンというアミノ酸の1種を3日間食べさせました。ロイシンは栄養源として利用され、含まれる重窒素は排泄されるだけだろうと考えて行った実験でしたが、予測はみごとに外れました。尿と糞に排泄されたのは重窒素の30パーセントだけで、約60%は体内にとどまったのです。臓器や血液のタンパク質を酸でアミノ酸にまで分解してどのアミノ酸に標識が現れるかを調べたところ、ロイシンだけでなく、蛋白質を構成する20種類のアミノ酸のすべてから重窒素が検出されました。ものすごい速度でロイシン分子はばらばらに分解され、その窒素原子は新たにタンパク質に再構成され、体中に分布したことを示しています。タンパク質以外の脂肪やDNAの成分も分解−再構成されることがその後判明しています。 ここから導き出された大切な概念は、「生命とは動的平衡にある流れである」ということです。そしてこの生きものの本質である動的平衡は相補性に基づく分子の自己組織化によって担保されているのです。
福岡氏の著書は、生きものや生命の本質と、生きものを真似たものづくりの限界と方向性を考えさせてくれます。(I)
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